オンラインによるトップ対談の記事―リリーホールディングス様×立科町―
2021.12.03
先月開かれたトップ対談の詳しい記事です。当日は3拠点からZOOMによるオンライン会場にお集まりいただき対談が実現しました。この対談の概要については以下の通りです。
1 日程
2021年11月19日(金)
2 スピーカーとファシリテーター
・株式会社リリーホールディングス 取締役副社長 堀 遼平 様
・Free Business Incubator 代表 白井千晶 様
・立科町 副町長 小平 春幸
・立科町テレワークセンター ディレクター 牧内久美
・立科町テレワークセンター 住民ワーカー 市川摩季
3 経過
株式会社リリーホールディングス様から立科町の住民ワーカーへ業務発注が開始されたことについて、双方の実績や活動報告、営業活動等に活用するため「発注に至った経緯や発注メリット」、「地方自治体との関係性に関する展望」などについてインタビュー形式の対談を行いました。
3 インタビュー
【白井】
早速ですけれども、まずは小平副町長に質問をさせていただきます。
立科町のテレワーク推進事業を実施するに至った町の課題や目的、これまでの成果に関してお話をいただけますか。
【小平副町長】
立科町は長野県の中でも小さい町です。多い時は8,700人ぐらいあった人口が最近ではもう7,000人を切ってしまうような状況です。
高齢化率も全国では約30%のところ、現在37.7%であり少子高齢化が進んでいます。1年間に生まれるお子さまが昨年は35人です。対して、お亡くなりになる方が113人と、自然減がとても大きい衰退局面にあるという状況です。そういった人口が少ない立科町では、地元に雇用を生み出すことが課題でした。
また U I ターン希望者が多いわけですけれども、私どもの産業構造とうまく合わないミスマッチな状況がありました。そういった中で、私どもみたいな産業や資源が限られた小さい町では、テレワークによる仕事の誘致が有用だと考えて事業を進めてきています。さまざまな事情を抱えた住民に対して、仕事の提供による経済的支援が可能になってきておりまして、人材育成や社会参加の手助けにもなってきました。さらにこの活動をきっかけに住民ワーカーを核とした新たなコミュニティもできてきた。このようなところが成果ではないかと思っています。
【白井】
市川さん、牧内さんは今の話に住民ワーカーの立場からご感想などありますか?
【市川】
人口減に関してはひしひしと感じている部分があります。私も子どもが一人いますが、学年のクラスが2つしかありません。この子どもたちが将来どういう働き方をするのかなって考えた時に、地元に残るという選択肢があるのかどうか。働く基盤があるって言うのはやっぱり大きいなって感じています。
【牧内】
私は以前地域おこし協力隊として移住の担当をしていました。若い世代の方が立科に来たいってなった時、今までやっていたお仕事を継続してできる勤め先がなくて、移住を悩む方がけっこういらっしゃいました。どうしても町の中だけでは製造業や農業が多いので、今回リリーさんから頂いたお仕事のように ICT の業務がいろいろ増えれば、やはり移住を希望する人にもより移住しやすい町になるのではと感じています。
【白井】
堀様にお尋ねしますが、立科町の住民ワーカーの方々にお仕事をご依頼いただけるようになったきっかけと発注に至った経緯を教えてください。
【堀様】
弊社の開発部門のワーケーション先として、立科町を訪問したことがきっかけでした。その際、弊社顧問の白井さんの紹介で、<立科町のテレワークセンターを視察させていただきました。
その時にはテレワークセンターで実際に業務をされている方々の様子や内部のセキュリティにもかなり気を配っていらっしゃることを確認することができました。その後、白井さんのアドバイスもありまして、お願いできる業務があるのではないかと考えたことがきっかけです。
このきっかけから具体的に2つの取組みについて我々は可能性を感じました。一つ目が弊社の制作したシステムの評価テスト業務の依頼で、二つ目は弊社が管理している全国のあらゆる業種の店舗様のGoogleマップに掲載する店舗紹介文と投稿文章の作成の依頼が実現できるんじゃないかと感じました。
【白井】
実際に業務発注をする際に準備したことや、どういったところが良かったか教えてください。
【堀様】
各取組みの準備ということでは、評価テストについてはテスト仕様書を準備させていただきました。Google マップにおける文書作成については、店舗様のホームページやその他の SNS などを共有するだけでした。
両取組におきまして、我々としては準備の負担も非常に軽く効率的に業務をお渡しすることができていると感じています。その理由はキャリアのある方や経験豊富な方がワーカーとして在籍されていたからではないかと考えています。エンジニア経験がある方やライティング実績のある方がいらっしゃったので、最低限の準備で安心して業務をお任せすることができたところが非常に大きなメリットだと感じています。
【白井】
牧内さんには、ディレクターとしてリリーさんから具体的な仕事の依頼が飛んできていると思うんですが、それを受けてどのような形でワーカーさんたちが業務を遂行しているんですか?
【牧内】
リリーさんとは Slack でやり取りができるので、非常に迅速かつ時間を選ばずやり取りができ、とてもありがたいと思っています。
ここにいる市川さんにライティングチームのリーダーをお願いしていて、チームメンバーに「今回何件来ているから、このぐらいの納期だね」といった具合に相談しながら割り振りをしています。アサインしたメンバーが常にこのテレワークセンターに来るわけではないので、それも Slackでやっていて各自が自宅で作業をしています。完全にリモートな感じです。データ共有においてはGoogle のスプレッドシートを用いてすごくスムーズにできています。
最近ではみなさん記事を書くことが結構好きになってきていまして、ありがたいことにそういう経験もこちらのワーカーのスキルアップに役立っていると思います。
【白井】
先ほど「時間に限らず」っていうところがキーワードとして出たと思いますが、それはとても大切なポイントだと感じます。
働いているみなさんは、一日の中でたくさんできる人もいれば、少ししかできない人とかいらっしゃると思います。時間帯によって、子どもを保育園や幼稚園に送り出した後、引き取りに行くまでの間は働けるとか。もしくは、家の用事をした後に夜に少しだけであればできるのでその時間で働きたいっていうような方々など、いろんな方がいらっしゃると思いますが、いかがですか?
【市川】
ワーカーミーティングなどの情報共有の場でそれぞれのワーカーさんから話を聞いて、様々なケースがあるなって思いました。スキマ時間があって、やりたいことがそれにマッチするかどうかっていうのは結構大きな問題です。業務によってはここ(テレワークセンター)でないとできない場合もあるので、リリーさんからいただいている業務は自宅でできることが子育てする女性にとって働きやすい条件だと感じています。
【白井】
リリーさんからの依頼業務は、「記事の執筆といったライティング業務」や「ソフトウェアの評価テスト」といった内容です。これは ITのアウトソーシングではあるけれどもそれぞれ違いがあって。でも、これを立科町テレワークセンターっていう箱で、ワンストップで受けることができるようになっているというのは、やはりいろんな地域から移住した方とか、元々住んでいた方で様々な専門性を持った方がいらっしゃったことが基盤にあると思うんですね。
フリーランスとして個々に業務を受けている方々は全国各地にいらっしゃると思いますが、立科町の場合は、テレワークセンターという一つのコミュニティに統合することで、個のワーカーの点を線にして、やがて面にするような動きができていると思うんです。個々の特徴や専門性を持った多様性のあるチームができあがっている。
人手に限りがある企業様から見ると、社内の自分じゃなくてもできるけれども、誰かがやんなきゃいけない業務について、テレワークセンターが外注できる一つの箱になっているんじゃないかと思いますが、ワーカーのお二人はどのように感じていますか。
【牧内】
白井さんがおっしゃったとおり、非常にいろんなスキルを持った方が登録しています。評価テストのリーダーをされた方はバリバリにプログラムを書いたりしていた方から、初心者の方でパソコン初めて触りましたという方も実は数名いらっしゃったりします。業務はチームで受けさせて頂いているので、スキルのある方の下にあまり経験がない自信がないっていう方をアサインして仕事を受けるようにしています。スキルをシェアするっていうか、いわゆるスキルトランスファーをしながら成長してもらう形です。
それと、今は業務ごとにチーム制をとっていて、評価テストが得意な方やライティングが得意な方、経理の経験がある方など様々な経験が豊富な人をリーダーとしてそれぞれの業務チームを形成しています。このようにすることで、たとえば、住民の方が新しくワーカーに登録しに来た時に、業務が担えるか不安な状況だったら、単純なデータ入力をするチームに入っていただきます。新しく入ってくる方にとってもハードルも高くなく、さらに仕事してるうちにスキルが上がる良い循環の仕組みかなと思っています。
【市川】
好循環を生んでいますよね。入り口を広く開けているので、品質に影響がない範囲でトライアルさせて頂いて、さらに横展開で少しずつ業務範囲が広がっていくというスタンスです。
発注側の企業様からすれば、もうちょっとスピード感があった方がいいと思う部分はあると思いますが、トライアルでもやらせていただける企業様とのご縁は大事にしたいと思います。
【白井】
では実際にリリーさんが業務発注を行ったところ、本当に効果があったのかざっくばらんにうかがえればと思いますが、いかがですか?
【堀様】
ワーカーさんのリアルなお声を頂けてとても嬉しく思います。弊社リリーホールディングスは創業してまだ5年目の会社ですので、非常に若いメンバーだけでやっているベンチャー企業です。ですので、まだ、30名弱のメンバーで運営しています。その中で新しいプロジェクトや新しい業務がどんどんサービスとともに生まれていくような状況です。また、そういった攻めの行動をとっていかないと、業界としても生き残っていけない厳しい状況にいることを痛感しています。
その中で、みなさまにご協力いただいていることは、結論としては「いろんなことを前に進めることができる時間を作って頂いている」という感覚を持っております。例えば評価テストについては、テレワークセンターさんにお願いする前は、実際に弊社の社内エンジニアが時間を使って実施していた業務になりますので、この業務をお任せすることで業務時間の自由度が非常に増したというふうに考えています。これによって確保できた時間的余裕の中で、新たなプロジェクトを進行させるための取組みをスタートすることができる。新たに事業をより前に進めることができたと考えています。
Googleマップの紹介文や投稿文の作成についても、弊社のサポートチームが今まで行っていた業務になります。こちらも立科町のみなさんにご協力いただくことで、実際のお客様との時間に多くの時間を費やすことができるということで非常に顧客満足度の向上に繋がっているという実感があります。
あくまでも、サービスがお客様のためになって喜ばれているという事がサービス継続の一つの大きな要素にもなりますし、サービスの評判が広がるっていうことを考えますと、みなさまのご協力のもとサービスひいては会社の評価の向上につながって、新しいことにどんどんチャレンジできるような状況を創り出しているという実感もあります。
【白井】
評価テストやライティング業務に関するアウトソースは、選択肢がたくさんあると思います。派遣社員の方に来ていただくというやり方や、民間の BPO 企業に発注するという選択肢。もう一つは、この立科町テレワークセンターのようなエリアに発注頂くという選択肢。
今回、リリーさんには立科町テレワークセンターにご依頼いただくっていう選択肢を取って頂いたわけですが、前段でお話があったように、立科町のテレワークセンターのワーカーさんは、様々な事情をお持ちの中、それでも働きたいという意欲をもった方々が集まっているというところです。ですから、ある方は3時間、ある方は別の時間帯で3時間ないし2時間働くというような業務形態になっています。この点について、例えば派遣社員を雇うとか、BPOであれば一人の方にフルタイムで仕事をしてもらうという発注の方法に対して、ネガティブというかボトルネックになってしまうといったことは実際にありましたか。
【堀様】
そういうことはありません。逆に業務としてただやってもらうということを我々は求めているわけではありません。先ほど出た店舗紹介文であったり文章の投稿というのは、やはり共感性が生まれる内容であったりとか誰かに何かが伝わる内容であるべきだと考えています。
手段としていろんな発注先の選択をして、あるいはBPOを選ぶこともあるとは思いますが、そこはタスク業務ではなく心がこもったお仕事をしていただくことが非常に信用できるし、嬉しいな、ありがたいなと思うところでした。そこが先ほどのお話にも表れているかもしれないのですが、たくさんの業務は請け負えないけど、しっかり質を保って、その中でできる限りで横展開していただけるというこの言葉に全てが詰まっているんじゃないかなって思います。
だから、我々としてはたくさんお渡ししたいのに請けてもらえないみたいな感覚ではなくて、全く同じスタンスや仕事に対する向き合い方を持ちながら一緒に業務を進めている、プロジェクトを前に進めているというような感覚を持ってお仕事をさせていただいています。
【白井】
リリーさんは、社員でないとできない非常に付加価値の高い業務と、そうじゃない別の方にお願いしてやってもらえそうな業務をうまく切り分ける形でこれまでも取り組まれています。今回、立科町で請けているソフトウェアの評価テスト業務は、新しい IT サービスの企画とか実際にどういったサービスを作るかっていうサービスの設計デザインの部分に関しては社内の経営幹部が担当し、ITサービスのプログラミングに関しては南米のあのウユニ塩湖で有名なボリビアでやっています。それで、ボリビアで作られたプログラムの最終的な品質保証を立科町でやっています。ですので、名古屋とボリビアと立科町っていうそれぞれの役割を果たしてひとつのサービスが開発されているんですね。
元々リリーさんはそういった役割分担、先ほどお話にあったようにベンチャー企業で従業員もそれほど多くない中で、餅は餅屋で気心が知れたチームと一緒に仕事をするというスタンスができているということだと思います。
そうなると、それが今度はメリットになってくるんですよね。通常の派遣会社の社員であれば、1名採用してその方が急に休まなければならなくなった時に完全に業務が止まってしまうところを、立科町の場合は、3時間ぐらいしか働けない人でも、複数人がチームを組んでやっているので、どなたかが何か事情があって休みになったとしても仕事に穴が開かない体制が既にできあがっている。2~3時間しか働けないということは、逆に言えばチームとしてのバックアッププランが確立していると考えることもできるので、リリー様は非常に上手な使い方をしているなっていうのは私が感じたところです。
小平副町長にお伺いしたいのですが、今までのお話も含めてテレワーク事業の方向性や今後の方針に関して、今思われることなどざっくばらんにお聞きできればと思いますが、いかがでしょうか。
【小平副町長】
今の話を聞いて、本当にいい事業を始めたなと思っています。
これからについては、住民ワーカーの数も当初は10名ぐらいだったのが60名を超えてきていますので、もっと雇用の受け皿として拡大していけばと考えています。
また受注額もかなり伸びてきておりまして、2020年度の実績で1,400万円、2021年度の上半期は920万という状況です。目標として2020年度に3,000万円の受注を目指していますので、やはり雇用の拡大も見込めるんじゃないかと思います。もう一つは、ただ業務を請けるだけではなく、企業様のサテライトオフィスとしての機能もここに持って来て頂きまして、こちらにも進出していただければと思っています。
【白井】
小平副町長の力強いお言葉を頂きましたが、テレワークセンターの登録ワーカーは今60名を越えたというところですけれども、さらに100名、150名という体制拡充を期待していますし、さらに専門性のレベルアップにおいても、ベテランワーカーとして業務をこなしている方や、ディレクターのみなさまにしっかりと教育をやって頂きながら、立科町テレワークセンターが各地方から見ても、非常に競争力のある雇用の受け皿になっているという状況を作り上げていただくというところを期待したいと思います。
テレワークが主流になってきていることからも、立科町テレワークセンターが立科町の中だけではなく、長野県さらに愛知県その他東京など県外からしっかりとお仕事を持ってくるような集積地になっていくことをすごく期待したいなという風に思っています。
リリーさんは急拡大している勢いのある元気な会社でございますので、今ご依頼をお願いしている色々なお仕事も一つ一つが太くなっていくという部分があると思いますが、今後さらに仕事が増えてくるんじゃないかと思っています。そこで、もっと期待を持っていろいろ安心して仕事を出せるというポイントについて少しお話しいただけますか?
【堀様】
今の取組みについて拡大する部分で申し上げると、まず評価テストについては、現在は我々が仕様書を作成して業務をご依頼する形ですが、ゆくゆくはテストの仕様書を作成するといった発注の準備段階からお願いすることもできるんじゃないかと。
また、Google マップの取組については、現状はGoogle マップの紹介文や投稿内容の作成を依頼させていて、みなさまに空けていただいたこの時間で我々は新たな取組みを日々チャレンジ・トライしており、今後、 Instagram とか Twitter などSNSに対するコンサルティングサポートのサービス化ということも考えています。こういった内容も可能であれば文章の作成を依頼するといった違う取組みが可能ではないかと思っています。
先ほど白井さんからお話があったとおり、ボリビアとのオフショア開発も行っていますので、これ自体が非常にSDGs の取組みにもつながってくると思っています。名古屋と立科町っていう関係だったり、名古屋とボリビアっていう関係であったり、地域による差は何かしらあると思いますので、この差を埋めていくような取組み。例えば雇用の差であったりとか、仕事にチャレンジできる枠組みの広さの差であったりとか。このような差を埋めて経済活動を活発化させていくというSDGsの取組みができるんじゃないかと思っています。
また立科町さんとのご縁の中で、我々もシステムの開発スキルやノウハウをより拡大していこうと思っていますから、もし町の方で必要になってくる新たな取組みに対して、世の中に売っていないものを作らないといけないような場合には、内容、クオリティ含め一緒に取組みを進めていきたいと思っています。本当にいかようにも様々な取組ができるんじゃないかと思っています。
【白井】
リリーさんの今後の発展も、立科町テレワークセンターの発展も間違いないと思いますが、冒頭で堀様の方から少し触れられたように、ワーケーションの実施エリアというところで立科町を考えられていたってところがありますので、開発部隊だけじゃなくて経営合宿なんかでも立科町を使っていただきたいなと思っています。
御社の経営陣の方は名古屋のいろんな経済界にご人脈がございますので、そういったみなさまとぜひ立科町の視察等をご検討いただければ非常に嬉しいと思っています。実は立科町では開発合宿や経営会議、オフサイトミーティングなどのワーケーションを積極的に受け入れる「立科WORK TRIP」という事業を展開しています。開発合宿ができるようなペンションやホテルを案内してくれるコンシェルジュも在籍していますし、町の方で会議に必要なホワイトボードやプロジェクターなどの備品を無償貸出していますのでぜひうまく活用していただいて、堀様にはぜひ現地入りして立科町との関係をさらに深めていただければと思っています。
それではこちらでリリーホールディングス様と立科町の対談を終了したいと思います。今日はお忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございました。